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『思えば、僕の人生の中心はいつも父がいた。
 僕はずっと、ただ父に愛されたいと願い、
 父に誉めてもらいたくて、人一倍勉強もし、
 仕事にも打ち込んできた。
 もしかすると、鉄作りに熱中して、必死で夢を
 追いかけたのも、その満たされない思いを埋める為
 だったのかもしれない。
 高炉建設と、海外進出を果たせば、
 今度こそ父に認めてもらえるかもしれないという、
 淡い期待は、いつも胸に忍ばせていた。
 もしかすると、父もまた、僕が生まれたせいで出来た
 心の傷を埋める為に、合併という、大きな野望を
 抱いたのかもしれない。
 全ての不幸は、僕がこの世に存在したことが原因だ。
 僕の存在が、万俵家の家族や、それに関わる周囲の人々を
 苦しめてきたかと思うと、
 本当に辛い。
 本来、僕は生まれてきてはいけない人間だったんだ。
なのに、母は僕を産んでくれた。
 感謝の思い出いっぱいだ。
 お陰で、素晴らしい夢を見ることが出来た。
 夢を追ったこの二年は、僕の誇りだ。
 支えてくれた全ての人に、心から感謝する。
 そして、迷惑をかけた全ての人に、
 心から詫びる。
 これを機に、父にも、母にも、
 もう楽になって欲しい。
 僕の死を持って、万俵家の忌まわしいこと全てが、
 終わりを告げると信じている。
 そして、僕の工場と、万俵家の家族を、
 幸せに導いてくださるよう、思いを父に託したい。
 憎みあっていても、血はつながっていなくても、
 僕の父親は、万俵大介だった。
 せめて一度でも、お父さんに微笑みかけてほしかった。』


「人間はちっぽけな存在だ。
 自分を強く見せようとして、背伸びしては傷つき、
 その傷口を自分自身で広げてしまう、
 愚かで、弱い生き物だ。
 だからこそ人間は、夢を見るのかもしれない。
 夢の実現には困難を伴い、
 時として、夢は人を苦しめる。
 それでも僕は、未来を切り開くことが出来るのは、
 夢に情熱を注ぐ人間の力だと、信じている。
 しかし、志を忘れたとき、栄光はすぐに、
 終わりに向かうだろう。
 ・・・でも僕は、なぜ、明日の太陽を見ないのだろう。」


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