「正直言うと、僕は、彼女のことを、思い出さないようにしていた。 
 でもあの時、彼女に言われた「嘘つき」って言葉は、
 間違って、冷たい水に入れられた角砂糖みたいに、
 かき回しても、かき回しても、溶けなかったんだ。
 どうしても、心に残り、沈む。」


菜緒は弘人も来ることを知り、帰ろうとする。
「ちょっと!
 今日、亜裕太君のバイト先についてきてあげたのは誰?
 前期試験の芸術学のノート、コピーさせてあげたのは誰?
 この前、フランス語の代弁してあげて、
 それがバレてみっちり絞られたのは・・・誰?」
「・・・裕子さんです。」
「だったらここは、大人になろうよ。」
裕子が説得を続ける。
「ね、みんな楽しんでいるわけだし。
 それに、菜緒、本当は会いたいでしょう?弘人君に。」
「・・・怖いな。ちょっと・・・。」
「大丈夫だよ。私がついてるよ。」
「もしかして、グル?」
「どこがグルよ!今日ずっと一緒にいるじゃん!」


光るヨーヨー釣り。
イガイガしたおもちゃが発光している。
「可愛い!」
「どれがいいの?」弘人が聞く。
「え?」
「色。」
「あ・・オレンジ!」
一度目・・・失敗。
二度目・・・もう少しで釣上げられそう!
その時、隣にいた裕子がふざけて弘人を揺らした。
「お前!何すんだよ!」
弘人が裕子の頭を叩く。
「ごめんごめん!」
菜緒は2人の楽しそうな様子を見つめ・・・。
「なんだこれは・・・。心が凍った。お前って言った。」


一人、弘人を待つ菜緒。
弘人が走って戻ってきた。
「あれ、みんなは?」
「・・・見にいった。」
「はい、これ。」
ポケットからオレンジのヨーヨーを取り出し、渡す弘人。
「ありがとう!」
「どういたしまして。」
「・・・ありがとう。」
「つーか、ガキかよ、そんなもん欲しがってさ。」
「違うよ!あなたが取ってくれたのだから、欲しいんだよ。」
「・・・俺も、俺も、あんただから取ってきたんだけど。」
弘人はそう言い微笑む。驚いた表情の菜緒。
「あ、行こうか、見に。」
菜緒に背を向けた弘人は、後ろ向きのまま手を差し出す。
弘人の手を見つめる菜緒・・・。
菜緒が、オレンジのイガイガをその手に乗せる。
「違うだろ。」
イガイガを返したあと、もう1度手を差し出す。
菜緒が、弘人と手をつなぐ。
二人は、手をつないだまま、走り出した。

手をつないだまま、獅子舞を見つめる二人。
「何回目で釣れた?これ。」
「ん?秘密。」
「ケチ。」
「あ、そうだ。この前家行ったじゃん。」
「ああ。」
「あんたんちさ、うちから見えるよ。」
「え?うそ!本当?」

花火を見上げる二人。
「あ!ねえ、いいこと考えた!!」

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